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琵琶の名手「平経正」

平経正は平清盛の弟、平経盛の嫡男で、清盛の甥っ子である。平経正は琵琶の名手として知られ、能でも経正は有名である。平曲では経正は二度主役として出てくる。一度目が「竹生島詣」二度目が「経正都落」である。経正は先の平通盛同様、父経盛が平清盛の弟ということで、出世、その嫡男である経正も昇進していった。しかし、教盛の一門に比べると経盛の一門はあまり目立たず、出世街道も控えめに進む。経正には弟が二人いた。一人は経俊、そして末の弟が平家物語ではいちばん有名な平敦盛である。この敦盛は一門の中で唯一無官であった。このことからも、経盛一門が控えめなことがわかる。当の経正は幼少の頃より、守覚法親王に仕え、御室仁和寺によく詰めていた。その後、皇后宮の亮となった経正は通称もそう呼ばれるようになった。以仁王の令旨が諸国にもたらされ、反平家の機運が一気に盛り上がり、各地で反乱が起こる中、北国で木曾義仲が挙兵した。平家は都維持のため、北国の木曾を打つべく出陣、圧倒的な兵力で北国へと向かった。平経正も出陣したが、合流する軍が遅れたため、経正は家臣数人とともに、竹生島に戦勝祈願に向かった。琵琶湖に浮かぶ竹生島は現在でも大変きれいなところで、経正もかねてから行きたがっていた。竹生島についた経正、都玖武須磨神社に詣でると、そこの神主が琵琶の名手経正が来ている事を知り、琵琶を弾いてくれるように頼む。経正が琵琶を弾き始めると、その琵琶の音の美しいこと、この世のものとは思えないほどである。その美しい音色に誘われ、白龍が現れ、経正の周りを飛んだ。その姿を見て、誰もがこれから出陣する北国での勝利は間違いないと思い、気持ちよく竹生島から帰っていった。龍神が現れる吉事があったにもかかわらず、平家軍は倶利伽羅谷で大敗をきっし、経正も命からがら落ち延びた。都に戻った経正ではあるが、木曾義中の侵攻が都に迫り、平家は都落ちを決定した。経正も一門の皆とともに都を落ちていくが、経正はこの列から離れ、一路御室仁和寺の御所を目指した。この仁和寺御所には自分が幼少の時から苦楽をともにした守覚法親王がいて、経正は最後の別れを言いに舞い戻ったのである。その時、経正は琵琶「青山」を法親王に預かってほしいという。この青山という琵琶は朝廷の御物で、三種の神器同様に扱われるほどの稀代の名器だった。日本には三つの琵琶が御物として伝わる予定だった。獅子丸は中国からの帰路、嵐を鎮めるために海中に没したが、玄象と青山が伝わった。その青山が琵琶の名手で経正があったことから、経正に渡されていたのである。琵琶を愛する経正、龍神が現れるほどきれいに琵琶を弾く心優しい経正は、この貴重な琵琶を戦の中で失うことはできないとして、守覚法親王に預けにきたのである。経正はいつか都に戻りましたら、またというが、もう都に戻る気はしていなかっただろうし、これが今生の別れになることもわかっていたのだろう。そんな悲しげなやりとりを見て、幼少の頃より経正のことを知る僧行慶は別れを惜しみ、歌のやり取りを経正として、別れを告げる。この行慶が後経正の死地を訪ね、経正の亡霊と会う話が能「経正」である。こうして、飛ぶ鳥後を濁さずの例えの通り、経正は心残りなく、都を後にし、その後西海の波を漂い、屋島から一の谷に出陣し、この一の谷で討ち死にした。経正の弟二人もこの一の谷で戦死し、兄弟三人帰らぬ人となってしまった。 平経正は武人というよりも風流の似合う公達であった。父平経盛も大変風流な人であったことから、この経盛の子達は皆風流の似合う公達で、血生臭い戦場が一番似合わない公達であった。龍神が現れるほど美しく琵琶を弾くということは、技術的にうまいというだけでなく、心穏やかで、優しい気持ちの持ち主でなければ、美しく琵琶を弾くことなどできない。また、琵琶青山を大事に扱う姿は同じ琵琶を弾くものとして、とても共感を覚えるし、青山もさぞ嬉しく思ったに違いない。私の琵琶の先生である須田誠舟先生がよくおっしゃるには琵琶に愛情を持ち、よく琵琶を磨けば音も変わってくるという。この経正の話を見ると、その話も本当であろうと思う。平経正、琵琶を愛し、琵琶とともに生きたその人生は琵琶を弾くものにとっては大変魅力的な人物である。そんな心美しい経正の周りの守覚法親王や行慶といった経正の人柄を知る人物にとって、経正の去り行く姿、死はどれほど辛く、悲しいことであったろうか。吉川氏の「新平家物語」では経正が死ぬと預けていた琵琶「青山」の絃がひとりでに切れたという。それぐらい琵琶に情をこめることが経正にはできたのであろう。

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